通訳に関するポイント
逐次通訳(consecutive interpreting) 一区切りは20-60秒程度で、通常1つのまとまった考えをあらわす長さ。
区切りの長い逐次通訳はいろんな通訳方式の中でも最も難しい。
逐次通訳は通訳技術の三つの要素である理解、リテンション(記憶とノートテイキング)、表現が比較的明瞭に識別されるため、技術習得の訓練上も効果的であり、通訳者養成の過程で最も大切な部分を占める。
同時通訳(simultaneous interpreting) 同時という厳しい作業上の制約のために通訳者は普通15-20分ごとに交代する。
サイト・トランスレーション(sight translation) スピーカーがあらかじめ用意された原稿を読む場合の通訳。
ウィスパー通訳(whispered interpreting) 同時通訳の一形態だが、通訳者はブース内でヘッドフォンを通して聞くのではなく、会議室内で通訳を必要とする参加者の近くに位置し、聞き手の耳にささやくように通訳する。
通訳と翻訳
通訳と翻訳の間には相互補完的な要素が強い。時間をかけずに伝えることはできても正確さを欠く危険性のある通訳は、翻訳の「正確性」から学ぶことが多いし、原文に忠実であろうとするために話し手の意図を分かりやすく伝えることが苦手な翻訳は、通訳の手法から得るところが多い。
通訳の作業は話してのいうことを聞いて理解することから始まる。通訳者にとって理解する力は最も大切な能力である。
通訳で一番大切なのは、細かい点にこだわることなく話し手が聞き手に伝えたいポイントを正しく捉えることだ。
サイト・トランスレーションでは事前に準備することが1番重要である。時には、スピーチの直前に原稿を渡され、準備する時間もないことがある。そういう時のサイト・トランスレーションは原稿のない同時通訳より難しい。
いい仕事をするためにはいつも自らの知的レベルを上げるべく努力していなければならない。明日の仕事のために夜なべをすることもしばしば。勉強の嫌いな人は、通訳にむいていないかもしれない。
まだ外国語の力が十分でない人が通訳者の訓練を受けるのは効果的ではない。現在では語学の学習と通訳の訓練とが混同される傾向が強い。
日本人はすべて日本語が話せるわけだが、言葉のプロである通訳者としては、豊かな語彙を持ち、正しくきれいな日本語を使うことができなければならない。
メインアイディア
言葉から離れて、「センス」を捉えることができるようになれば、通訳の勉強で1つの大きな山を越えた、といえる。
1つのパラグラフのメイン・アイディアを捉える上でかぎとなるのが、「キーワード」だ。キーワードさえただしく捉えれば他の単語をいくつか聞き落としても全体の理解には差し支えない。
内容を聞き手に分かりやすく伝えるためには、まず通訳者が話しをよく理解しなければならない。そのためには、通訳者は聞いたことにすぐ反応するのではなく、少し待ってスピーカーの言うことを聞く必要がある。
スピーカーから少しずつ遅れながら、話し手の話しの言うことが良く理解できれば、話しの先が読めてくる。予測が可能になるのだ。予測によって通訳者は時間の余裕ができ、表現の方により注意を注ぐことができる。
通訳における理解は、言葉ではなく「意味」を捉えることである。
理解できたかどうかを知るには、あるまとまったテキストを要約してみるのが一番いい。
通訳における再表現で最も大切なのは「分かりやすさ」である。通訳の目的が話し手のいうことを正しく聞き手に理解してもらうことである以上、通訳者の表現は分かりやすくなければならないのは当然であろう。訳した文章として正しくても、話し手の考えや意図が聞く人によく理解されないようでは良い通訳とはいえない。
通訳者はパブリックスピーカー
通訳者は、また、パブリック・スピーカーであることを忘れるべきではない。私たちは話すことで仕事をする、話すことの専門家なのである。はっきりと、分かりやすく話すことはその基本である。
十分ボリュームのある声を普段から出すような練習をすべきだ。小さな声の、ぼそぼそした話し方では、せっかくのいい通訳も引き立たない。分かりやすく伝えるためには、話しにリズムが必要。
パラグラフ
逐次通訳の一つの区切りは文章ではパラグラフに当たることが多い。パラグラフの中には一つのメイン・アイディアがあるのが普通。そしてこのメイン・アイディアをめぐっていくつかのセンテンスが展開される。したがって、話の流れを記録するのはセンテンス単位でするのがよい。センテンス単位で、そのセンテンスのキーワードをノートする。そもも全部書かなくても始めの1字か2,3字書いておけば十分である。
もう一つの要素はポーズである。書いた文章のセンテンスがピリオドで区切られるように、通訳者の表現もポーズを置くことによってはっきりする。センテンスあるいはパラグラフの終わりと思われる箇所では、声の調子を落として少しポーズを置くと良い。
私たち通訳者は、常に日本語と中国語の語彙と表現力を高める努力を続けなければならない。
「正しく理解し、分かりやすく表現する」という通訳技術のエッセンスは、言語活動の基本目標と合致する。したがって適切な方法で通訳訓練が行われるならば、それは言語学習、言語能力の向上にも役立つはずである。
私たち普通の成人は、理解を通して記憶する意味的記憶を中心にし、固有名詞、数字のような機械的記憶を必要とするものは、記憶しようとするより直ちにノートに取ったほうが良い。普段あまり使わないテクニカル・タームもこの類に入る。
ノートテイキング
逐次通訳では通訳者はノートをとるのが原則である。通訳におけるノートは、記憶を補完するもの、ということができる。この点で、ノートテイキングは速記とは基本的に異なる。話の内容を分析し、理解しながらノートとして保持し、通訳のための再表現につなげなければならない。
ノートテイキングの練習に入る前に、記憶力を少し磨いておくことが望ましい。
一番大切なことは、通訳のためのノートは速記とは根本的に違うということである。耳で聞いた言葉をすぐ記録するのではなく、理解し分析した結果をノートする。あくまでも理解が優先しなければならない。理解を伴わないノートは、通訳には役立たないといっていい。
通訳者はメモしながら聞いているのではない。つまり、メモは補助的なものに過ぎず、逐次通訳の最も重要なポイントは記憶する、それも立体的に、話のエッセンスを逃さず、発言の流れを把握しながら、話の内容を整理しながら記憶する。
ごく短時間の記憶保持もできない人がノートテイキングの技術を習得しようとするのは本末転倒である。